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小児在宅医学会参加レポート:就労中は重度訪問介護が使えない

2025年9月13日と14日に開催された小児在宅医学会に参加してきました。どのセッションも大盛況で、立ち見が続出しました。また、全国各地から多職種がお集まりになっており、小児在宅医療に対する関心の高さを肌で感じました。

就労時間中は重度訪問介護サービスが使えない

「医療的ケア児支援法から医療的ケア児者支援法へ ~医療的ケア者の就労における法的な課題~」というテーマのセッションでは、制度上の問題、しかも人権侵害に該当する可能性もある重大な問題を取り扱っていました。その制度上の問題とは、就労時間中は重度訪問介護サービスが使えない、という問題です。

重度訪問介護とは障害者総合支援法に基づく介護サービスであり、重度の肢体不自由者、重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者で常時介護を要する方々が利用できるサービスです。以下のようなサービスを包括的に受けることができます。

  • 身体介護(入浴・排せつ・食事)
  • 家事援助(調理・洗濯・掃除)
  • 外出支援
  • 相談・援助(生活全般)

障害特性や心身の状態をアセスメントし、その状態に必要と思われる標準的な支援の度合いを示すものとして障害支援区分が決められます。認定された障害支援区分や提出されたサービス等利用計画案に基づき障害福祉サービスの支給決定が行われます。

公的サービスの利用制限の正当性

障害福祉サービスや介護保険サービスのような公的サービスは、次のように、基本的に提供拒否をしてはならないことになっています。

法令・制度上の基本原則

  • 原則として拒否禁止
    介護保険や障害福祉サービスでは、事業者は「正当な理由なくサービス提供を拒否してはならない」と厚生労働省令で定められています(例:障害者総合支援法、介護保険法)。これは利用者の権利保障と公平性を確保するための基本原則です。
  • 地方自治法の規定
    公の施設(例:福祉施設)についても、地方自治法第244条で「正当な理由がない限り、住民の利用を拒んではならない」と規定されています。不当な差別的取扱いも禁止されています。

しかしながら、次のような正当な理由がある場合には、公的サービスの提供を制限することができるとされています。


正当な理由とされる典型例

  • 安全・秩序維持
    他の利用者や職員に対する暴力行為、脅迫、重大な迷惑行為など、刑法に抵触する行為がある場合は、サービス提供拒否が正当化されます。
  • 施設の能力・定員超過
    定員を超える利用申込みや、施設の運営上対応が困難な場合(例:専門的支援が必要だが提供できない)、正当な理由となります。
  • 契約上の信義則違反
    利用者が契約上の義務を著しく履行しない場合(例:利用料未払い)には、契約解除や利用制限が認められます。
  • 公序良俗・人権侵害防止
    ヘイトスピーチなど、他者の基本的人権を侵害する恐れがある場合、利用制限が合理的とされます。

就労時間中であるということは制限の「正当な理由」か?

重度訪問介護は「生活支援」を目的としており、経済活動(就労)中の利用は原則認められないとされてきました。このことを厚生労働省の告示(第523号)では「経済活動に係る外出(通勤・営業活動等)は対象外」と明記しています。また、「衆 議 院 議 員 早 稲 田 夕 季 君 提 出 重 度 訪 問 介 護 等 を 就 労 ・ 通 勤 ・ 就 学 ・ 通 学 に も 使 え る よ う に す べ き こ と に関する質問に関する答弁書」(内 閣 衆 質 二 〇 一 第 八 三 号 令 和 二 年 三 月 六 日)では、在宅勤務中についても重度訪問介護の利用は認められないと明言しています。


しかしながら、「生活支援」を日常的に行っている私たちとしては、就労時間中のご利用者の支援が「生活支援」ではないという見方に疑問を持たざるを得ません。


私たちのご利用者に限らず、人間にとっては、衣食住だけではなく、また、趣味や個人的楽しみの時間だけではなく、仕事を通じて他者から感謝されたり信頼関係を作る時間も生活の一部ではないでしょうか。時には失敗し悔しい思いをしたり、同僚から助けてもらって深く感謝するという経験も、豊かな人生をかたち作る生活の一部であるに違いありません。


ご自身の能力を発揮して自己効力感や自己肯定感を得ることができるという意味でも、仕事は豊かな人生を彩る生活の一部であるとも私たちは捉えており、私たちGCI芍薬訪問看護はご利用者からのご希望があれば仕事をすることができるよう支援しています。

「生活」と「経済活動」と明確に区分できるのか?

この「仕事」とは必ずしも時給や月給といった形で報酬を得る「仕事」だけではありません。作家やコンサルタントのように数か月の「仕事」の成果として報酬を受け取る場合も「仕事」でしょうし、無償ボランティアであれば金銭的な報酬はゼロであっても、それが「仕事」だと思う方にとっては「仕事」でしょう。


最近ではパソコンひとつで「仕事」ができるようになってきており、特にコロナ後は、自宅でパソコンと携帯電話だけで十分に仕事ができるようになった方が増えました。こうした仕事の仕方に慣れた方々は、たとえ要介護状態になっても、「仕事」をすることを諦めないでしょうし、実際に要介護状態でもできる「仕事」をご自身で見つけ出すのではないかと思います。


特に最近の20代30代の方々の新しい形の「仕事」であるYouTuberやゲームアプリ開発は、要介護状態になっても自宅でもベッド上でもできる「仕事」の代表格ではないかと思います。こうした「仕事」は、当たれば収入があるかもしれませんが、全く収入につながらない可能性もあります。結果収入がなかった活動を「経済活動」と定義できるのか?逆に、当初収入を目的とせず趣味の一貫で始めた活動が数年後に市場で受けて、収入を得るに至った場合、その活動は「経済活動」なのでしょうか?作家や作曲家や画家の活動についても、これと同じようなことが言えると思います。


つまり、「生活」と「経済活動」との区分けが、ICT技術の進化や個人の仕事の仕方や価値観により曖昧になってきていますし、この傾向は今後ますます強くなっていくのではないかと思うのです。現役時代にICT技術を仕事で使いこなしていた団塊の世代の方が高齢期に入ってきますし、その後の世代はICTに加え、副業も広がりひとつの組織に縛られない働き方や、コロナ騒動もあり、仕事をする場所も時間も多様化した働き方を経験しています。


そろそろ制度も、このような我国の生活と経済活動(仕事)との境界線が曖昧になってきた時代の変化に合わせ、障害者制度をアップデートしていかなければ、障害者権利条約(国際法)や国内法の趣旨から、社会参加の機会を不当に奪う差別的取扱いと評価される余地があると思われます。


また、障害者差別解消法の「合理的配慮義務」に抵触する可能性があるともされています。代替手段がなく、本人の就労機会を奪う場合は問題が大きいと言われていますが、医療的ケア者にとって身体介護に代替できる手段はなく生死にも関わることであり、これを制限することは「合理的配慮義務」に抵触すると思います。


私たち訪問看護の利用制限についても、今回ご紹介した重度訪問介護の利用制限と同様、理不尽だと感じる場面がこれまで多々ありました。また別の機会にご紹介したいと思います。

サマリー

(2025年9月13・14日 小児在宅医学会/重度訪問介護の就労利用問題)

  • 学会の様子
    2025年9月13日・14日に開催された小児在宅医学会は、全国から多職種が集まり、どのセッションも大盛況でした。小児在宅医療への関心の高さが感じられました。
  • 重度訪問介護サービスの就労利用制限
    「医療的ケア児支援法から医療的ケア児者支援法へ ~医療的ケア者の就労における法的な課題~」というセッションでは、就労時間中に重度訪問介護サービスが使えないという制度上の問題が議論されました。これは人権侵害に該当する可能性もある重大な課題です。
  • 重度訪問介護サービスの概要
    障害者総合支援法に基づき、重度の障害者が利用できるサービスで、身体介護・家事援助・外出支援・相談援助などが包括的に提供されます。
  • 公的サービスの利用制限の正当性
    介護保険や障害福祉サービスは「正当な理由なくサービス提供を拒否してはならない」と法令で定められています。地方自治法でも「正当な理由がない限り住民の利用を拒んではならない」と規定。不当な差別的取扱いは禁止されています。
  • 正当な理由とされる典型例
    安全・秩序維持、施設の能力・定員超過、契約上の信義則違反、公序良俗・人権侵害防止などが「正当な理由」とされます。
  • 就労時間中の利用制限は「正当な理由」か?
    厚生労働省告示(第523号)では「経済活動に係る外出(通勤・営業活動等)は対象外」と明記されており、就労中の利用は原則認められていません。在宅勤務も同様です。
  • 制度への疑問と社会的背景
    「生活支援」と「経済活動」の区分がICT技術の進化や働き方の多様化により曖昧になってきており、現行制度は時代の変化に対応できていないと思われます。仕事も生活の一部であり、就労中の支援が「生活支援」ではないという見方は疑問です。
  • 制度改正の必要性
    障害者権利条約や国内法の趣旨から、社会参加の機会を不当に奪う差別的取扱いと評価される可能性があり、制度のアップデートが求められます。特に、代替手段がなく本人の就労機会を奪う場合は、障害者差別解消法の「合理的配慮義務」に抵触する可能性があると考えられます。