写真の説明:有坂博子ケアマネージャーが、これからご利用者宅に訪問するところ。
GCI芍薬訪問看護にはケアマネージャーも在籍しており、訪問看護師と一体となって在宅ホスピス緩和ケアを提供しています。GCIケアリング芍薬管理者の有坂博子ケアマネージャーに、現在どのような活動をしているのかインタビューしました。
目次
専門性に対する知的好奇心から開始したケアマネージャーキャリア
インタビューアー
まずは、有坂さんがどのような経緯でケアマネージャーを目指されたのか、教えて頂けますか?
有坂博子ケアマネージャー
もう30年近く前のことになりますが、義母の介護をしていた時のことです。訪問して下さっていた専門職の皆さまの記録を読んで義姉が「やっぱり専門職だと違うわね。」とつぶやいたのです。一体何が違うのだろう、私の介護とどこが違うのだろう、という好奇心から介護を勉強してみることにしたのです。それで、まずは介護福祉士の資格を取り、2年後の平成17年に介護支援専門員の資格を取得しました。
社会福祉士へと知的好奇心が広がる
インタビューアー
有坂さんは、平成23年には社会福祉士の資格も取得されていますが、これは何故なんでしょうか?
有坂博子ケアマネージャー
GCI芍薬訪問看護に入職する前、私は中区でケアマネージャーとして働いていました。その時、地域的に生活保護のご利用者を担当することが多かったのですが、分からないことが多く壁にぶちあたっていました。その時、そうしたご利用者を区役所側から担当しているのが「ワーカーさん」と皆に呼ばれる社会福祉士さんでした。同僚のケアマネージャーに相談しても解決できない疑問も、ワーカーさんに相談すると明確な回答が返ってくる。私の知らないことの多さを感じ、それで、私も社会福祉士の勉強をしてみようと思い立ちました。
インタビューアー
なるほど。確かに、ご利用者の生活上の困りごとは介護保険のサービスを利用するだけでは解決しないでしょうから、有坂さんは違う視点を追い求めていたんでしょうね。それが社会福祉士の視点だったと。
有坂博子ケアマネージャー
NHK学園の社会福祉士養成コースに通ったのですが、授業の中で、これまでは別々の点であったことが線でつながって、一気にベールが剥がれ落ちて全てが理解できたという感覚の、心の底から面白い、と思える時間もありました。ところが試験勉強となると、その時もう50歳代になっていたこともあり大変でした。でも、「一緒に勉強しよう。」と誘ってくれる仲間に恵まれたのと、先生方も非常に熱心でした。今から思うと、学園での勉強の他にグループで勉強会と称して集まったり、数人の仲間と一緒に国家試験突破を目指してました。息子が「お母さん、そうやって少しづつアップするのっていいよね」と言ってくれたことも励みというか、今でも忘れられない思い出です。
インタビューアー
成人した息子さんに、そんな風に言ってもらえるのって素敵ですね。その頃から、奥川幸子先生が提唱するグループスーパービジョンや、ホスピス緩和ケアで実践されているスピリチュアルケアにも関心がおありになったんですか?
奥川幸子先生のグループスーパービジョンとスピリチュアルケア
有坂ケアマネージャー
社会福祉士の勉強をする前に、神奈川県立保健福祉大学実践教育センターのトータルマネジメント課程を受講しました。そこで奥川幸子先生のグループスーパービジョンに出会いました。特に先生が提唱するグループスーパービジョンからは多くの学びを得ることができ、感銘を受けました。私たちは実践家なので実践の中から学んでいくということが大切で、奥川先生はまさに、私たち実践家にどうしたら自己成長できるのかを教えて下さっているのだと思います。一時、グループスーパービジョンのとりこになり、どこかで研修があれば事例を書きまくり、研修に参加していたこともあります。次に出会ったのがスピリチュアルケアでした。これは今でもよくわかりません。当時はスピリチュアルケアの感性を磨きたいという思いで、めぐみ在宅クリニックの小澤先生の勉強会に何度も通いました。
大学院で利用者の内面のアセスメントが支援者の成長につながると見えてきた
インタビューアー
さらにその後、大学院でも学ばれていますね。
有坂博子ケアマネージャー
もう一度アカデミックな場で専門的に勉強したいと思ったのは、ケアマネージャーの仕事に対するモチベーションが下がってしまったからかもしれません。もっと人と深く関わりたいと思うようになったのですが、担当しなければならない利用者も増えて、なかなかおひとりおひとりに深く関わることができませんでした。そのような思いでいたときにGCI芍薬訪問看護に居宅があることを知り、電話をしてみました。
インタビューアー
GCI芍薬訪問看護では当初、大学院での勉強とケアマネジメントと、二足のわらじ状態だったのですね。大変でしたね。大学院で何を学ばれたのか教えて頂けますか?
有坂博子ケアマネージャー
特に基本のアセスメントの在り方を見直すことができました。長年ケアマネジメントに従事してきて、アセスメントでチェックリストを埋めることに注力しすぎているという物足りなさを感じるようになっていました。大学院では、この気持ちを教授にもクラスメートにも、様々な場面で問いかけていたように思います。ワークやプレゼンテーションを通して自分の考えや疑問を述べる機会がよくありましたが、教授とゼミの仲間と一緒に考える時間が持てたことは幸せでした。そんな時間を重ねた結果見えてきたのは、クライエントの内面まで含めたアセスメントを行うことによって、クライアントとの関係が深くなるだけではなく、支援する一人ひとりが家族や多職種と交流することによって少しずつ成長していくこと、そして、そのような過程が支援の質の向上に繋がるということでした。
インタビューアー
クライアントの内面まで含めたアセスメントというのは、スピリチュアルケアに繋がるようなアセスメント、ということなのでしょうか?
有坂ケアマネージャー
私はそこまでスピリチュアルペインのことはわかっていません。アセスメントも、もちろんクライアントの内面まで含めたアセスメントです。そしてスピリチュアルペインは最も把握しにくく、クライアントご自身も気づいていない場合もあり、対人援助者としては着目しなければならない側面だと思います。一方でクライアントの内面には、これは専門的な話になってしまいますが、スピリチュアルな側面だけではなく心理社会的な側面もあります。ここに精神的側面を加える場合もあります。いずれにしても、私が着目すべきと考えているのは、これら全ての側面です。
インタビューアー
有坂さんの自己研鑽の様子がよく分かりました。私が最近読んだ新聞に「学び続けている人は趣味に没頭したり家族関係に満足している人と同様、幸せ度が高い」という記事がありました。有坂さんはまさにこの「学び続けている人」で「幸せ度が高い」んだな、と思いながらお話をお伺いしていました。ここで話題をガラリと変えて、実際の現場ではどのような活動をされているのか教えて頂けますか?
充実したケアマネジメントと在宅ホスピス緩和ケアの実践
有坂ケアマネージャー
GCI芍薬訪問看護に転職して一番驚いたのは担当するケース数のノルマがないということです。けれどもだからと言って決して楽なわけではなく、内部の訪問看護師から依頼を受けるとすぐに動かなければならないという切迫感は常にあります。特に、がん末期のご利用者を退院時からご支援する場合には、ご病態が急に悪化することが多いので、ご利用者やご家族だけではなく、訪問看護師からの電話やラインに常に緊張感を持って対応しなければなりません。
インタビューアー
ひとりひとりのご利用者に深く関わりたいというご希望で転職されたのに、動きが速くてこれが実現できない、ということでしょうか?
有坂ケアマネージャー
いえいえ、そうは思っていません。動きは速くても短時間で関係性を築けていけると思います。というのも、訪問看護師からの正確な情報を適時に得ることができますし、訪問看護師と相談しながらケアマネジメントを進めていけます。そしてご家族に安心していただけるような言葉を選びます。ご家族の発する言葉に気を付けますしご家族の気持ちに添いたいと思っています。あまりに展開が速くて訪問看護師も私も一緒に初動を誤り、ご利用者・ご家族の真意を理解せぬままケアマネジメントを進めてしまったという苦い経験も過去にはありましたが、二度とそのようなアセスメントミスを起こさないように心配りしながら、緊張もしています。緊張感は自分を育てると思います。
インタビューアー
ホームページに「GCI芍薬訪問看護のケアマネージャーは入院してもサービス提供を継続する」というコメントがありますよね。ご利用者の入院中は介護報酬が入らないので、ケアマネージャーとしての活動をすることは普通、組織側がOKしないのではないでしょうか?
有坂ケアマネージャー
GCI芍薬訪問看護では全職種に対し、入院中もご支援を継続することを組織的に推奨しています。ご入院中というよりも、“介護・医療報酬の対象期間以外”のご支援も必要なら入る、という方針です。私も、訪問看護師からの要請で介護保険サービスを何も利用されていない方への訪問も自分も必要だと思ったりすることがあります。この思いは芍薬に入職してからの学びです。
インタビューアー
訪問看護師の場合、訪問看護ステーション芍薬は機能強化型Iのステーションなので、そうした活動も社会から期待される役割ですが、ケアマネージャーにはそのような行政からの要請はないですよね?
有坂ケアマネージャー
私はもともと、そうした活動をしたいと思って職場を探していたのだと思います。こういう私の理念と組織の理念が一致したということだと思います。
インタビューアー
例えば、どのようなことをされているのですか?
有坂ケアマネージャー
利用者さん宅への訪問途中でちょっとした買い物や電球の取替など簡単なことから、相続に関するような問題まで、様々です。「そんなこと、ケアマネがすることではない。」と言われ「そうかしら」と一瞬とまどったこともありましたが、社会福祉士の勉強を一緒にしていた頃の友人に相談すると「あなたしかやる人がいないじゃない!」と喝破され、ハッと目が覚めたこともあります。ケアマネは、利用者さんの生活を支援していくこと。利用者さんは、困っていることを何処、誰につないだらいいかがわかると少し不安が和らぐのではないかと思っています。ケアマネは利用者さんを誰か、何かに繋ぐ人です。
今後の展望
インタビューアー
最後に、今後の展望を教えて下さい。
有坂ケアマネージャー
これまでと変わらず、高齢者に対するリスペクトを保ちつつ高齢者の尊厳を守るということを基本的な姿勢としてマネジメントを進めたいと思っています。このところ2,3年はコロナ禍であったためにほかの人たちと相談しながらマネジメントを進めることが出来ませんでしたが、常に相談しながらマネジメントを進めなければいけないという気づきを得ることもできました。そしてこうした実践と並行して後輩のケアマネを育てることを行っていきたいと思っています。
インタビューアー
有坂さんはGCI芍薬訪問看護の理念を、ケアマネジメントを通して形にしておられるということがよく分かりました。ありがとうございました。
サマリー
有坂ケアマネージャーは義姉のひとことからケアの専門性に興味がわき、その後介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士へと次々と知的好奇心が向かっていきました。解決困難なことも社会福祉士が解決しているのを目の当たりにし社会福祉士の勉強をしてみようと思いました。
こうした勉強を続けていくと点と点が線でつながって一気に理解が進みました。一緒に勉強する仲間に恵まれましたし息子からも「そうやって少しづつアップするのっていいよね。」と言ってもらえ、心温まる思い出にもなっています。
私たち実践家に自己成長の方法を教えて下さる奥川幸子先生が提唱されているグループスーパービジョンの研修を受けまくったり、スピリチュアルケアの勉強会に何度も参加していた時期もあります。
その後大学院で学ぶことにしたのは、ケアマネの仕事に対するモチベーションが下がってしまったから。アセスメントの在り方を見直し内面まで含めたアセスメントを行うことでクライエントとの関係が深くなるだけではなく、支援側が成長し、支援の質の向上に繋がるのだと大学院で見えてきました。
GCI芍薬訪問看護では担当ケース数のノルマがありませんが、だから楽なわけではなく、内部の訪問看護師からの依頼にすぐに対応しなければならないという切迫感が常にあります。展開の速いケースでも看護師から正確な情報をもらえたり、常に相談しながらケアマネジメントできます。緊張感は自分を育てます。
介護・医療報酬の対象期間以外もご支援することを組織として推奨していますが、この必要性を明確に認識できたのは芍薬に入職しての学びです。具体的には日常生活の細々としたご支援という簡単なことから、相続に関するようなことまで支援内容は様々です。このようなことはケアマネがすべきことなのか議論があるところですが、私は利用者さんの不安を和らげる為にも、ケアマネは利用者さんを誰か、何かにつなぐ人だと思っています。
今後もこれまでと変わらず、高齢者へのリスペクトを保ちつつ高齢者の尊厳を守るケアマネジメントを実践していきたいです。常に誰かと相談しつつケアマネジメントを進めること、そして次世代の育成も今の私の展望です。