写真の説明: 毎年開催されている小児看護学会には全国から参加者が集まります。今年は仙台での開催でしたが、横浜からも小児専門病院に勤務する看護師に加え私たちのような在宅領域の看護師も参加されていました。また、児童養護施設や保育園、学校といったひとり看護師の職場で勤務する看護師の参加も多く見られましたし、今回ご紹介する「支援看護師」も含め、こうしたひとり看護師をサポートする体制に関するセッションも複数開催されていました。
「横浜型ー看看看連携」から学ぶ、医療的ケア児支援の新たなかたち
まずはテーマセッション「横浜型ー看看看連携」についてご報告します。医療的ケア児(医ケア児)を支える看護の現場が、どのように連携し、どんな課題に向き合っているのか。とても学びの多い時間でした。
「横浜型ー看看看連携」とは
このセッションでは、横浜市が医療的ケア児支援の一環として進めている「看看看連携」――訪問看護・保育所看護・学校看護の三者が連携する新しい支援体制について紹介されました。従来の「看看連携(訪問看護と保育・学校看護)」をさらに発展させた取り組みで、2024年度から横浜市の委託事業(正式名称:「学校・保育所等における医療的ケア児受入看護師支援事業」)として本格始動したそうです。
どんな取り組み?
医療的なサポートが必要な子どもたち(医療的ケア児)を受け入れる学校・保育所の看護師をサポートする取り組みです。児に訪問看護が入っている場合には、訪問看護師と学校・保育所の看護師をつなぐ支援も含まれます。
具体的サポート内容
(1)経験豊富な看護師さんによる現場でのアドバイスや情報共有支援
- 希望する学校や保育所に、医療的ケアの経験が豊富な訪問看護師である「支援看護師」が訪問し、子ども一人ひとりに合わせたケアのアドバイスをしてくれます。
- 児に訪問看護が入っている場合には「支援看護師」がこの訪問看護師との橋渡し役も担い、ご家庭での様子やご家族の思い、障がいや疾病の状況を学校や保育所に伝えてくれます。
- 1人の看護師につき、年に2回まで利用できます。
(2)eラーニングで学べる機会
- 基本的な看護の知識や技術を学べる動画教材を、希望する施設に1つ、無料で提供します。
(3)看護師さん同士の交流会
- 少人数で働く看護師が、同じ立場の仲間や訪問看護師とつながり、悩みや不安を話し合える交流の場をつくります。
それぞれの現場からのリアルな声から見えてきた取組の効果
登壇者の皆さんからは、それぞれの立場でのリアルな経験や課題、そしてそこから見えてきた当取組の効果が語られました。
保育所看護師は、医療職が一人だけという環境での保育士との連携の難しさについて率直に語ってくださいました。支援看護師がこうした「困った」に寄り添ってくれたり、在宅でのケア方法や児の様子を伝えてくれて、在宅と保育の場での連続性が保てるという効果があるというご発表でした。特に児の入退院後の再登園の際には訪問看護師と連携できて非常に良かったそうです。
学校看護師は、教育の場での看護師の立場や期待される役割は病院でのそれとは全く違っている上に、指示書に記載のある業務のみ実施可能という制約がある中で、個別性の高い医療的ケア児が安全に過ごすことができるようにする為に奮闘しています。このような環境下では、支援看護師のサポートが生活背景やご家族の思いを理解する為の強力な一助となっているというご発表でした。制度上、学校看護師は訪問看護師と直接連絡を取ることはできないのですが、当取組を活用すれば、学校看護師の発信で支援看護師にサポートを求めることができます。そうすれば支援看護師が学校看護師と訪問看護師を橋渡ししてくれるので、結果、学校看護師は訪問看護師とつながり、児のご家庭での様子やご家族の思いを正しく理解することができるのです。
「連携」は一朝一夕ではない
このセッションを通して強く感じたのは、「連携」は単なる情報共有ではなく、相互理解と信頼の積み重ねであるということです。看護師同士でも、所属する組織や文化が違えば、大切にしなければならないことも見えている世界も違う。だからこそ、対話と交流の場が必要なのだと実感しました。
印象に残ったキーワード:「支援看護師の存在意義」
支援看護師という新たな役割が、現場の橋渡し役として機能していることがとても印象的でした。単に「助ける人」ではなく、「つなぐ人」としての存在。今後、全国的にも広がっていく可能性を感じました。
このセッションを受講して
今回のセッションは、医ケア児を「まんなか」に据えた支援体制のあり方を深く考えるきっかけとなりました。看護師同士が組織の垣根を越えてつながることで、子どもたちの未来がもっと明るくなる。そんな希望を感じた時間でした。
GCI芍薬訪問看護の訪問看護師は、支援看護師登録し実際に活動もしています。GCI芍薬訪問看護では、今後支援看護師登録者数を順次増やしていく計画です。「つなぐ看護」の一員として、これまで小児在宅ホスピス緩和ケアに力を入れて取り組んできた実践経験を活かし、医療的ケア児の為に、そして地域の小児在宅ケアの充実化に資することを実践していきたいと思います。
ことばにならない苦しみに寄り添う看護とは?〜小児緩和ケアを語り合う時間〜
次は、「小児緩和ケアについて学び、語り合おう!第3弾」に参加してきました。このセッションは、ことばで苦痛を伝えることが難しいこどもたちの緩和ケアについて、看護師同士が経験を語り合い、学び合うというとても温かく、深い時間でした。
ことばにできない「つらさ」に、どう寄り添う?
今回のテーマは、「ことばで表現することが難しいこどもの緩和ケア」。対象となるのは、重い障害を持つこども、意識レベルが低下しているこども、挿管中や鎮静下にあるこども、そしてまだ言葉を話せない乳児など。さらには、苦痛を我慢してしまうこどもも含まれます。こうしたこどもたちは、自分の「つらさ」や「痛み」をうまく伝えられず、医療者に気づかれないまま苦しみ続けてしまうこともあります。
例えば、GCI芍薬訪問看護でも多くのケースを看ている重い障害のあるこどもは、生まれてすぐから痛みをともなう治療を何度も受けてきています。大きくなるにつれて、体のこわばりや骨や筋肉のトラブル、便秘などが原因で、さらにたくさんの痛みを感じることがあります。
こども達がこうした痛みをうまく伝えられないのは、どう伝えたら良いか分からないというだけではなく、大人たちを心配させたくないと思ったり、どうせ自分のことは分かってもらえないと思っていたり、痛みを伝えてどう思われるか心配だったりと、原因は多岐に渡るというご説明もありました。
事例紹介とグループワークでの気づき
セッションでは、まず実際の事例が紹介されました。言葉を発せないこどもが、表情や体の動き、呼吸の変化などで「何か」を伝えようとしていた場面。看護師がその「サイン」に気づき、ケアにつなげた経験が語られました。その後のグループワークでは、参加者同士がそれぞれの現場での経験や悩みを共有しました。
ことばにならない声を聴くために
このセッションを通して感じたのは、「ことばにならない声」を聴くには、看護師個人の観察力や知識だけでなく、医師も含めたチーム全体での共有が必要になるということです。こどもの痛みの共有には客観的なスケールの活用が有効だとされていますが、実際に活用し、医師だけではなくご家族との痛みの共有にも効果があったという参加者の実践も共有して頂きました。代表的客観的スケールは以下のようなものがあるというご紹介もありました。
- FLACC行動スケール(Face, Legs, Activity, Cry, Consolability scale)
- CHEOPS(Children’s Hospital of Eastern Ontario Pain Scale)
- 日本版PPP(Paediatric pain Profile)
- 日本版PIPP(Premature Infant Pain Profile)
さらに、こうしたスケールを用いた場合でも、そうでない場合でも、こどもの痛みに看護師が気づいた場合には、その原因分析をする際に看護師同士での共有と検討が不可欠だということもグループワークでの気づきでした。
看護師同士のつながりが力になる
このように今回のセッションでは、看護師同士のネットワークづくりの大切さも強調されていました。小児緩和ケアは、時に孤独になりがちな分野。だからこそ、こうして語り合える場があることが現場での支えになります。セッションの中では、看護師同士のつながりを持てる場所として小児緩和ケアに従事する看護師向けのポータルサイト(https://ppc-portal.jp/)のご紹介がありました
このセッションを受講して
「ことばで伝えられないこどもたちの声を、どう聴くか?」こどもたちのそばにいる看護師ひとりひとりが寄り添い、痛みのサインに気づくことと、その気づきを他の看護師とも多職種チームメンバーとも共有する。それこそが、痛みを伝えられない児の為の第一歩なのだと思います。今回のセッションで得た学びと気づきを、これからの実践に活かしていきたいと思います。
サマリー
🧩「横浜型ー看看看連携」:医療的ケア児支援の新たな連携モデル
🔗 目的
訪問看護・保育所看護・学校看護の三者連携で、医療的ケア児を包括的に支援。
🛠 主な取り組み
- 支援看護師が現場訪問・助言・橋渡し
- eラーニング教材の提供
- 看護師同士の交流会で悩み共有
💡 効果
- 保育・学校現場でのケアの継続性と安心感が向上
- 支援看護師が家庭と現場をつなぐ存在として機能
🧸「ことばにならない苦しみに寄り添う看護」:小児緩和ケアの実践
🎯 対象
言葉で痛みを伝えられない子ども(重度障害児、乳児など)
🔍 学びのポイント
- 表情・動きなどのサインを見逃さない観察力
- 客観的スケール(FLACC、CHEOPSなど)の活用
- チーム全体での情報共有が不可欠
🤝 看護師のつながりが力に
- 経験共有の場が孤独感の軽減とケアの質向上に貢献
✨ 共通のキーワード:「つなぐ看護」
- 看護師同士が組織の壁を越えて連携
- 子どもたちのより良い未来を支える新しい看護のかたち