ブログBLOG

SEARCH

グループスーパービジョン①


GCI芍薬訪問看護は質の高い在宅ホスピス緩和ケアを目指しています。その為には、個々の対人援助者(看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、リハスタッフ等)が専門家として一定レベル以上の高い能力を保持していなければなりません。そこでGCI芍薬訪問看護では、研修・教育体制を充実化しています。こうした体制に組み込まれている手法のひとつが、グループスーパービジョンというものです。今回からシリーズで、GCI芍薬訪問看護が採用しているグループスーパービジョンという専門家育成手法をご紹介していきます。

事例検討会の難しさ

対人援助者の育成手法としてよく採用されているのが事例検討会です。筆者もこれまで様々な事例検討会に参加してきましたが、事例提供者に気を使ってなのでしょうが肝心なところに踏み込めなかったり、逆に踏み込みすぎて事例提供者の心に傷が残るなど、事例検討会の難しさを痛感してきました。同様に、事例提供者を褒めたり慰めたりすることに終始する検討会や、数十人の参加者が次々と考えを述べるばかりで卓越者によるガイドや講評や総括が一切ない事例検討会に参加したこともあります。講評や総括をしないのは事例提供者と参加者が同等の立場で考えを述べ合う環境が重要であるからだと理解しつつも、時間ばかり費やして専門家としての学びはあったのだろうか?という疑問を感じた事例検討会も少なからずあったのです。

ビジネススクールのケース・メソッド:事例検討会と類似する手法

筆者は対人援助の専門家ではないのですが、米国のビジネススクールで事例検討と類似したケース・メソッドという手法の授業を数百回受けてきました。マネジメントや経営の事例が数ページから十数ページに記述されている「ケース」を授業の前に読み、授業ではこの「ケース」について教授のガイドで50人ほどのクラスメートとディスカッションしていきます。教授は事前に3つほどクエスチョンを投げかけており、私たち学生はこのクエスチョンが授業でのディスカッションテーマになると知っているので、自分の考えを準備することができるのです。授業の中ではディスカッションが予想もしなかった方向に流れることもあるので、準備したこと全てを活かせるわけではないのですが、それでも、大体の準備はできます。


ディスカッションをガイドするのはもちろん教授です。ケースの分析や鍵となる部分の掘り下げ、理論的解説などを加えていきます。そして最後にまとめと総括をしてくれます。この総括は、授業の前にそれぞれのケースと合わせて読むよう指定された数ページから数十ページの理論や学術的解説に沿っています。つまり、教授はそれぞれの「ケース」で学生に学んでもらいたいことが明確にあり、この学習目的達成の為に焦点を絞ってディスカッションをガイドし、最終的に重要ポイントを整理し総括してくれるので、学生は類似したケースに対処する力を多少なりとも確実に身に着けることができるのです。

スーパービジョン:対人援助者の育成に効果的手法

対人援助者の育成に効果的だと評価されているのがスーパービジョンという手法です。一般的な事例検討会では適切な対応策の検討、すなわち問題解決を目的とするのに対して、スーパービジョンは専門職の成長と専門性の向上、すなわち人材育成を目的としています。事例検討では事例の検討自体が目的となりますから、常に事例提供者がいるわけですが、スーパービジョンではスーパーバイジー自身が体験した事例を提供する場合とスーパーバイザーが教材としてのケース(本当にあった事例ではない場合多い)が提供される場合とがあります。事例検討ではグループ形式で行われますが、スーパービジョンではスーパーバイザーとスーパーバイジーの1対1で行われます。事例検討会では事例提供者がスタッフで上司や先輩といった指導や育成の責任者が参加者である場合もあり、時に問題点の指摘やアドバイスが含まれる場合もありますが、スーパービジョンではこのようなことはありません。スーパーバイザーはスーパーバイジーとは上下関係のない専門職同士という関係性のもと、スーパーバイジーが何を考え、感じ、学ぼうとしているかをくみとり、スーパーバイジーの学びを深めるという役割を担います。

グループスーパービジョン:スーパーバイザーが居なくてもできるスーパービジョン

このように専門職の実践、考え方、感情、技術にフォーカスしたスーパーバイザーがスーパーバイジーの専門職としての成長を促すスーパービジョンですが、スーパーバイザーが居ないという問題があります。特に在宅領域では、大病院などと異なり、ひとつひとつの事業所は小さく各事業所に所属している対人援助者数は限定的です。対人援助者として豊富な知識と経験をお持ちの方であっても、ご自身がスーパービジョンを受けた経験や、スーパーバイザーとしての実践を積みスーパーバイジーが成長したという手ごたえを実感した経験がなければ、スーパービジョンの効果やどのように進めれば良いかも分からず、スーパービジョンの実践に躊躇するのは当然のことです。そこでGCI芍薬訪問看護では、一定の実力を持つ対人援助の専門家同士がお互いにスーパーバイザーの役割を果たしていく“ピア・グループスーパービジョン”を導入することとしました。

グループスーパービジョンの効果

GCI芍薬訪問看護の有坂博子ケアマネージャーは、20年前に初めてグループスーパービジョンを経験しました。有坂博子ケアマネージャーが、初めてグループスーパービジョンを体験した時のことを次のように語ってくれました。

私がケアマネージャーになってすぐのこと。トータルケアマネジメントを教えて下さるということで、ある講習会に1年間通うことにしました。そこで、奥川式グループスーパービジョンの提唱者である奥川幸子先生の同僚の河野聖夫先生が講師として実践して下さったのがグループスーパービジョンでした。私が事例を書くことになりました。グループスーパービジョンの時間中は、事例提供者である私を責めてはいけない、サポートするように、というご指導が河野先生からありました。支援的な雰囲気でしたので、私もムリなく事例について語れたのを今でもハッキリと覚えています。特に学びが深かったのは、ご利用者やご家族が育った家庭環境や地域特性によって現在の生活が違ってくるということでした。対人援助者である私は、こうした背景を深く理解しなければならないということを学んだのです。また、対人援助者として腑に落ちない部分や違和感を覚えたことを無視せず考え続けなさい、というアドバイスも今でも深く胸に刻まれています。ご利用者がなぜこんなことを言うのだろう、なぜこんなことをするのだろう、という疑問が沸き起こるところにこそ、対人援助者として着目したり気づくべきことが隠されている可能性があるということを学んだのです。

GCI芍薬訪問看護でのグループスーパービジョンの導入

GCI芍薬訪問看護では、このような人材育成の効果を狙ってグループスーパービジョンを導入しました。有坂博子ケアマネージャー個人が実感した専門職としての学びの深さを、組織全体で共有することを目的として、GCI芍薬訪問看護のピア・グループスーパービジョンを開始することとしたのです。スーパーバイザーとしての豊富な実践経験をお持ちの大学教授に指南役をお願いし、2025年4月に開催した第一回ではスーパービジョンとグループスーパービジョンについての共通理解を得ることができました。GCI芍薬訪問看護は、今後も質の高い在宅ホスピス緩和ケアを提供するために、専門職の育成と教育に力を入れていきます。

サマリー

GCI芍薬訪問看護は、質の高い在宅ホスピス緩和ケアを目指しており、そのためには看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、リハスタッフなどの対人援助者が高い専門能力を持つ必要があります。このため、GCI芍薬訪問看護では研修・教育体制を充実させており、その一環としてグループスーパービジョンを導入しています。


事例検討会は対人援助者の育成手法として一般的ですが、効果的な学びを得るためには難しさも伴います。一方、ビジネススクールでのケース・メソッドは、教授のガイドのもとでディスカッションを行い、最終的に重要ポイントを整理することで学びを深める手法です。スーパービジョンは、専門職の成長と専門性の向上を目的としており、スーパーバイザーとスーパーバイジーの1対1で行われます。GCI芍薬訪問看護では、スーパーバイザーが不足している問題を解決するために、対人援助の専門家同士が互いにスーパーバイザーの役割を果たすピア・グループスーパービジョンを導入しました。


有坂博子ケアマネージャーは、グループスーパービジョンの経験から、対人援助者としての学びを深めることができたと述べています。GCI芍薬訪問看護では、このような人材育成の効果を狙って、スーパービジョンの実践経験豊富な大学教授を指南役にお迎えしグループスーパービジョンを実践していきます。