写真の説明:訪問看護ステーション芍薬の壁を彩るこのアメリカンキルトは、米国在宅ホスピスの先駆者「アーバーホスピス」から贈られた特別な品です。キルトには医療職だけでなく、事務やIT担当、ボランティアまで、患者様とご家族を支える多職種チーム全員のサインが記されています。専門家が互いの力を結集させて活き活きと働く——そんな私たちが目指す理想の職場環境とチーム医療の精神が、この一枚に凝縮されています。
今月は、GCI芍薬訪問看護の代表鈴木直美へのインタビューをお届けします。設立の背景にある「専門家が専門家らしく居られる職場づくり」へのこだわりや、お手本とした米国先駆的ホスピスとの深いつながり、そして組織を永続させるための工夫についてお聞きしました。
目次
働く人の環境を整えるために立ち上げた
Q:まず、法人の概要から教えてください。
A: 株式会社GCIの設立は2010年2月、資本金は1,000万円です。横浜市都筑区に本社を置いて、訪問看護と居宅介護支援、計画相談支援を運営しています。横浜市内で4事業所を運営しています。
Q:法人を立ち上げたときに、何を一番に考えていましたか。
A: GCI芍薬訪問看護(訪問看護ステーションを含めた法人傘下の全事業所)は、対人援助専門職とそのサポートスタッフが、活き活きと働ける職場環境を目指して設立されました。
対人援助専門職に限らず、専門家の道を目指そうとした人材は、強い思いを持ってその道を目指し、専門家としてのビジョンを描いて道を進み、そしてその道でこそ自分らしく居られます。
にもかかわらず、職場環境によってはこうした専門家としての想いやビジョンを実現できず、自分らしさを失ってしまうことも少なくありません。うまくいかない理由を本人の側に置くのではなく、GCI芍薬訪問看護は、対人援助専門家が専門家らしく居られる環境を整えようとしました。
Q:その環境として「在宅ホスピス緩和ケア」を選ばれたのはなぜですか。
A:深い理由は心理学ベースの組織論から説明しなければならないのですが、簡単に言うと人間は正しいことや重要だと思うことにやりがいや生きがいを感じるからです。在宅ホスピス緩和ケアは仕事人としてだけではなく、ひとりの人間として正しくかつ重要なことだと思う方が多いに違いないと直感しました。
そのホスピス緩和ケアですが、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族が直面する、全人的苦痛を和らげることを目的にしています。特に在宅であればその方らしく居られるので、ホスピス緩和ケアの目的を達成しやすくなると考えました。人として正しいこと、重要なことが自分の手で実現できる・・・こんなやりがいがあることが他にあるだろうかと私自身が心の底から思い、今でもそう思い続けています。
Q:人間にとっての最大の危機に直面した方に対するご支援には、確かにやりがいや生きがいが見出せそうですね。
A:GCI芍薬訪問看護には、こうしたケアのあり方を素晴らしい取り組みだと感じ、自分もそこに貢献したい、真摯に追い求めていきたいと願う専門家が集まりました。そして、個々の職種が異なる専門領域の力を結集させることで、チームとして大きな力をご利用者とご家族に届けています。
在宅ホスピス緩和ケアを目指す対人援助専門家とそのサポートスタッフが立ち上がり、自分の頭で考え、これまで必死に獲得してきた高度な専門知識と経験を自由に、そして自分らしく駆使することで、ご利用者・ご家族はきっと快適にご自宅で暮らし続けられる——GCI芍薬訪問看護はそう考えています。
米国での衝撃的な出会いと、経営理念の原点
Q: その頃は在宅ホスピスというのは一般的ではなかったと思いますが。
A: 私が在宅ホスピスと出会ったのは2007年の米国でした。大学院で様々な医療現場や高齢者施設を視察・研究したのですが、ホスピスで働くスタッフの活き活きと働く姿と温かさに感動しました。
たった1時間程度の訪問でしたが胸に刺さり、どうしても忘れられず、帰国後ボランティアを申し出て、3か月常駐させて頂きました。その間、なぜこのホスピスで働くスタッフはこんなにも違うのか、私のミシガン大学経営大学院での専攻であった組織論の知識をベースに徹底的に調べ上げ、深く考え抜きました。
こうして出来上がった経営理念とビジョンと経営方針が、現在のGCI芍薬訪問看護にそのまま投影されています。
GCI芍薬訪問看護の「生みの親」アーバーホスピス
Q:その視察されたホスピスというのが「アーバーホスピス」ですね。
A: はい。アーバーホスピスは、いわばGCI芍薬訪問看護の「生みの親」であり、私たちが日本で在宅ホスピスを展開するうえでお手本にしている米国中西部では老舗のホスピスです。日本の厚生労働省の方々も視察に訪れたことがあるそうです。
そこでは医師や看護師はもちろんのこと、ヘルパー、ソーシャルワーカー、チャプレン、ボランティアが多職種協働(チーム医療)を行っていました。
Q:そのアーバーホスピスから、素敵な贈り物が届いたとお聞きしました。
A: そうなんです。一枚の「アメリカンキルト」が届きました。
アメリカンキルトは開拓時代に生まれた手芸文化で、実用的な防寒具からスタートし、現代では独自の美しい手芸・アートとして世界中で親しまれています。アメリカでは人生の節目や大切なイベントにおいて、親しい人へ心を込めてキルトを贈る豊かな習慣があり、開拓時代から現代に至るまで「愛や祈り、絆を形にした贈り物」として受け継がれてきました。
お手本であるアーバーホスピスの多職種チームから、心強いエールとして贈られたものです。
手書きのメッセージに刻まれた世界基準の在宅ホスピスチーム医療
Q:キルトにはどのような方々からのエールが記されているのですか?
A: 多職種チームメンバーのサインやメッセージが手書きされています。
たとえば、院長の Gloria Brooks(グロリア・ブルックス)さん。院長でありながら50名もの多職種ミーティングを自ら取りまとめ、チームを前に進めているのが印象的でした。
チャプレンの Diane Smith(ダイアン・スミス)さん。彼女が横に座っていてくれるだけで「この人は私と一緒に居てくれている」と感じる、私の人生で初めての不思議な体験をしました。
ソーシャルワーカーの Linda Bender(リンダ・ベンダー)さん。「チーム全員で同じことを患者さんに伝える、それがチームワーク」と仰っていたのが印象的でした。
そして、看護部長の Teri Turner(テリ・ターナー)さん。ホスピスについて何も知らない私を大歓迎してくださり、何度もご自宅に食事に招いてくださいました。(その食事の間にも患者さんからのオンコールに応えておられました。)鎮静が行われている時の多職種ミーティングで、ミシガン大学の倫理学者の意見を聞いた上で実施しているという事実を共有した上で、疑問があれば看護部長である自分に直接聞くように全スタッフに周知して欲しいと凛とした姿勢で指示されていた姿が印象的でした。
Q:本当に多岐にわたるスタッフの方々が関わっているのですね。
A: ええ、他にもホスピス医師、ホスピス看護師、ナースプラクティショナー(特定看護師)、セラピードッグ、ボランティア・コーディネーター、グリーフ・サポート・コーディネーター、オンコール専門看護師、ボランティアさん、営繕担当者、IT部門担当者、医療事務担当者、受付担当、訪問調整担当者に至るまで……ひとつのチームとして患者さんに寄り添うメンバーの手書きメッセージが刻まれています。
国は違っても、目指す「最高の在宅ホスピスケア」の志は同じです。
専門職が輝き続けるための「組織の仕組み」
Q:そうした理想のケアや環境を永続させるために、法人形態や組織づくりでも工夫されている点があるとお聞きしました。
A: 福祉関連では「株式会社」という形態は一般的ではありませんし、営利法人であるとして良くない印象を持つ方もおられると承知しています。ですがあえて株式会社という形態を選んだのは、公認会計士試験にあたって勉強した「会社法」の中の株式会社制度に心から感動したからです。制度が考え抜かれていてぐうの音も出ず、そこに貫かれた法律的考え方が非常に面白いと感じて、一時は商法学者を目指そうと思ったほどでした。
「代表取締役の第三者責任」(会社法第429条1項)や「株式譲渡自由の原則」(会社法第127条)などに象徴される人間の英知が結集された株式会社制度であれば、正しく運用すれば永続性ある組織を作れる「仕組」であるに違いないと考えたのです。
弊社は株式上場していないので適用対象外ですが、現在でもコーポレート・ガバナンス・コード(上場企業が健全で持続的な成長を遂げ、中長期的な企業価値を向上させるために守るべき行動規範)やサステナビリティ開示基準(企業の環境・社会・ガバナンスなどの「持続可能性に関する情報」を投資家等向けに開示する方法を定めたルール)を勉強しています。私が代表を退いた後も、このような「仕組」として対人援助専門職とそのサポートスタッフが活き活きと働ける組織が永続することを期待しています。
組織づくりでは、組織文化を最も重要視しています。組織文化は経営戦略や内部規程や業務プロセスとは異なり、経営意思決定によって簡単に作れるものでも、変えられるものでもありません。全ての経営・マネジメント的意思決定や活動がジワジワと組織文化を形成していきますので、GCI芍薬訪問看護が目指す組織文化形成に資するよう、日々の意思決定や活動に気を配っています。
創業当時からずっと大切にしてきた、リーダーシップ、チームワーク、世界最高水準の質を、現在GCI芍薬訪問看護で勤務している対人援助専門家全員が大切にしているのはこのためです。だからこそ、アーバーホスピスと同様、自分の頭で考え、これまで必死に獲得してきた高度な専門知識と経験を自由に、そして自分らしく駆使することができているのです。
サマリ
専門家が自分らしく輝く場所づくり:専門職が知識と経験を自由に発揮し、活き活きと働ける環境を目指してGCI芍薬訪問看護は設立されました。
原点となった米国の「アーバーホスピス」:代表が現地で感銘を受けた世界基準の在宅ホスピス多職種連携が、現在の経営理念やチーム医療の土台となっています。
永続する組織づくりの「仕組み」と「文化」:会社法に基づく組織設計と、リーダーシップ・チームワーク・最高水準の質を追求する独自の組織文化が、理想のケアを次世代へ繋ぎます。