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小児在宅医療における意思決定支援〜子どもの権利を守り、家族と「暮らし」を作り上げる訪問看護師の役割〜

「この子にとって、一番いいことは何だろう。」

医療の現場では、治療をするのか、しないのか。どの医療機器を使うのか。どこで療養するのか――さまざまな場面で、ご家族が大きな決断を迫られることがあります。

特に小児在宅医療では、子ども自身が自分の意思を言葉で伝えることが難しい場合も多く、ご家族が代理で意思決定を担います。

そのとき、私たち訪問看護師には、単に医療的な情報を伝えるだけではなく、「その子にとっての最善とは何か」を、ご家族と一緒に考え、その子の思いを代弁していく役割があります。

今回、GCI訪問看護ステーション芍薬の小児プライマリケア認定看護師・山口睦が、第15回日本小児在宅医学会学術集会において、「小児在宅医療における意思決定支援の重要性~訪問看護師の視点から~」を発表しました。

発表者である山口睦看護師への直接インタビューを交えて、小児在宅医療における「意思決定支援」のリアルな現場と思いをお伝えします。

学会発表のテーマ:重篤な疾患を持つお子さんとご家族の「意思決定」

  • 演題名:小児在宅医療における意思決定支援 ~訪問看護師の視点から~
  • 発表者:株式会社GCI 訪問看護ステーション芍薬 小児プライマリケア認定看護師 山口睦

小児医療における意思決定では、本人が直接思いを言葉にすることが難しいため、ご家族(親御さん)が代理で選択を行うことになります。しかし、命に関わる大きな選択を迫られたとき、ご家族は深い葛藤と大きな責任感の中で揺れ動きます。

今回事例として紹介したのは、18トリソミーを持ち、誤嚥性肺炎を繰り返して人工呼吸器の装着が必要となった小児(Kちゃん)のエピソードです。

Kちゃんは、生まれてから何度も誤嚥性肺炎を繰り返していました。それでも、ご家族と一緒に自宅で生活し、療育センターや特別支援学校、放課後デイに通い、家族で外出や旅行を楽しんでいました。好きなアイドルの「推し活」も、Kちゃんにとって大切な日常の一つでした。

ところが今回の誤嚥性肺炎による入院をきっかけに、人工呼吸器から離脱できない状態となりました。病院からは、人工呼吸器を使用しなければ余命は半年ほどになるという説明。一方、お母さまには、「残された命が人工呼吸器によって制限されるのであれば、人工呼吸器を使わずに家に連れて帰りたい」という思いがありました。

3回にわたって人工呼吸器から離脱する試みが行われましたが、離脱することはできませんでした。病院から提示されたのは、「人工呼吸器を装着して退院する」か、「人工呼吸器を外して退院する」かという選択でした。

「人工呼吸器をつけると学校へ行けなくなるのではないか」「自由な暮らしが制限されるくらいなら、装着せずに家に連れて帰りたい」と悩まれるお母さん。それに対し医療陣は「呼吸器を装着しなければ余命は短い」という厳しい見通しを提示せざるを得ない状況でだったのです。

インタビュー:訪問看護師だからこそできる「生活の具体化」と「代弁」

学会発表を終えた山口看護師に、今回の意思決定支援で大切にしたポイントについて詳しく話を聞きました。

ポイント1. お子さんの「代弁者(アドボケイト)」になること

小児のACP(アドバンス・ケア・プランニング)において、お子さん本人の本当の気持ちを完全に知ることは極めて困難です。

お子さんの呼吸が悪化した状態を見た場合、医療者は「呼吸状態が悪化している、本人はとても苦しくて辛そう」と判断しますが、医療者ではないお母さんは、前もよくなったから今回も大丈夫という、長年の母の経験や独自の判断により「もう少しでよくなるだろう、いつものことだから大丈夫。」と捉えてしまい、お子さんが辛い状態が続くことがあります。

そこで訪問看護師は、お子さんの様子を日頃からよく知る立場として「身体的な苦痛を感じているのではないか」というお子さんの声を代弁(推測意思の提示)し、お子さんの権利や最善の利益はなんだろうかと家族と一緒に考えることを念頭において支援していきました。

ポイント2. 医学的な言葉だけでなく、「実際の生活」を具体的にイメージすること

「現在の呼吸状態では呼吸器をつけないと苦しいですよ。」といった病態の話だけでは、医療者ではないご家族が「自宅でどう暮らせるか」をイメージできないのは当然です。

人工呼吸器をつけながらでも入院前の生活に近い生活を送ることができることを説明しました。例えば、

  • 「家でも両親がお風呂にいれてあげられますよ」
  • 「呼吸器をつけても推し活(好きなアイドルの動画観賞やイベントへの参加)ができますよ」
  • 「学校行事への参加や学校通学もできますよ」


このように、医療ケアを組み込んだ生活の具体的な場面をイメージできるように話ができることこそが、在宅の場を知り尽くした訪問看護師の強みです。

病態生理学的な話であれば医療者であればできますが、訪問看護師が、児とご家族の日々の生活や大切にしていることを踏まえてこのような具体的な日常生活の話をすることで、家族は「自分達のことを分かってもらっている」「家での生活をみてくれている訪問看護師さんが言うなら確かにそうだよね」「家でもできるかもしれない」と感じることができたのではないかと思います。ご家族と何度も家での生活を具体化し対話を重ねることで、訪問看護師自身もご家族や本人の本当に大切にしていること気づくことができ、その後の看護にも生かすことができたと思います。

「お家で暮らしたほうが楽になる」母と医療者が同じゴールに向かった瞬間

こうして何度も対話を重ね、具体的な生活のサポート体制を見つめ直す中で、お母さんの心境に変化が生まれました。 「家で過ごす方が、この子にとって楽で幸せなんだ」「細かいケアを工夫すれば、やりたいことができる」という確信に変わりました。それまでの間、病院のスタッフは呼吸器を装着せずにご自宅で過ごす方法について考えていてくれていましたが、ご家族の心境の変化に合わせて「どうすれば呼吸器をつけながらでも安全に自宅で過ごせるか」と一緒に懸命に考えてくれました。

結果として人工呼吸器を装着して退院した後は、学校の行事への参加、放課後デイ、Kちゃんが好きなアイドルの「推し活」など、Kちゃんらしい生活を送ることができました。最期は病院で、ご家族が揃った中でお看取りとなりました。

発表を振り返って(山口睦看護師より)

「振り返ってみると、Kちゃんの担当訪問看護師になり約10年でした。Kちゃんが余命宣告をされてから、日々Kちゃんがどのような生活を望んでいるのか、Kちゃんや家族にとってよいこと(最善の利益)は何かを考えながら日々手探りで看護を行いました。今回の発表を通して、『私の看護は意思決定支援だった』という自信に、少しですがつながりました。そして何より、亡くなった後ご家族が「今でも、どちらがよかったかなと考えることはありますが、呼吸器を持ち帰らなかったら学校に行くことも、3か月家で過ごすことも難しかったと思うし、やれることはすべてやれたかなと思います」とのお言葉をいただきました。Kちゃんとご家族との約10年間の思い出や看護を胸にこれから出会うお子さんにも寄り添っていきたいと思います。

お子さんの本当の気持ちを100%理解することはやっぱり難しいですし、『もっとできることがあったのではないか』という問いは残り続けます。それでも、その子にとっての『最善』とは何かをご家族と一緒に考え、日々のケアや意思決定の中に緩和ケアの視点を持ち込みながら生活を作り上げていく。それこそが、私たちが訪問看護で日々大切にしていることなのだと実感しています。」

最後に

当訪問看護ステーション芍薬では、子どもから大人まで、がん・非がんを問わず、利用者様とそのご家族が「自分たちらしく生きる」ための意思決定支援と緩和ケアに力を入れています。

これからも、地域で暮らす医療的ケア児やお子さんたちの「声なき声」に耳を傾け、ご家族と一緒に歩んでまいります。